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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)128号 判決 1976年5月21日

原告 プリマハム株式会社

右代表者代表取締役 竹岸政則

右訴訟代理人弁護士 成富安信

同 山本忠美

被告 中央労働委員会

右代表者会長 平田冨太郎

右指定代理人 雄川一郎

<ほか四名>

参加人 プリマハム労働組合

右代表者中央執行委員長 山崎紀悦

右訴訟代理人弁護士 原田敬三

同 福地絵子

同 上条貞夫

同 小池振一郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  原告を再審査申立人、参加人を再審査被申立人とする中労委昭和四八年(不再)第四八号事件につき、被告が昭和四九年七月三日付でした別紙命令書(以下「命令書」という。)記載の命令(昭和四九年八月二一日付で更正されたもの。以下「本件命令」という。)を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二請求原因

一  本件命令

参加人は、東京都地方労働委員会に対し、原告を被申立人として不当労働行為救済の申立てをしたところ、同委員会は、昭和四八年六月五日付で次の命令(以下「初審命令」という。)を発し、右命令書の写は、その頃、原告に送達された。

(一)  被申立人プリマハム株式会社は、申立人プリマハム労働組合の昭和四七年五月一五日付申入れに基づき同組合が指定する、臨時徴収費の賃金控除を行ない申立人組合に控除額を交付しなければならない。

(二)  被申立人会社は、下記文書を申立人組合に手交しなければならない。

会社が昭和四七年四月一七日に各事業所に掲示した従業員に対する掲示のなかに貴組合の運営に支配介入するような文言があると東京都地方労働委員会において認定されました。

今後このような方法で貴組合の運営に支配介入いたしません。

昭和 年 月 日

プリマハム株式会社

代表取締役 竹岸政則

プリマハム労働組合

中央執行委員長 山崎紀悦殿

(注 年月日は手交した日を記載すること)

原告は、初審命令を不服として、被告に対し再審査の申立てをしたところ、被告は、昭和四九年七月三日付で別紙命令書記載のとおり、初審命令主文第二項を変更する旨の本件命令を発し、この命令書の写は同年八月三日原告に送達され、さらに、被告は、右命令を別紙「プリマハム不当労働行為事件命令書更正通知について」と題する書面記載のとおり、同年八月二三日付で更正した。(以下、当事者等の表示は命令書理由第1、1当事者等欄に記載されている略称による。)

二  本件命令の違法性

本件命令は、原告が社長声明文を掲示したこと及び臨時徴収費のチェック・オフを拒否したことを不当労働行為であるとした初審命令の判断を相当であるとしているが、これは事実の認定及び法令の適用を誤ったものであって違法である。よって、本件命令の取消しを求める。

≪以下事実省略≫

理由

一  本件命令

請求原因第一項の事実及び同第二項の事実中、本件命令が原告が本件社長声明文を掲示したことと臨時徴収費のチェック・オフ(以下「本件チェック・オフ拒否」ともいう。)を不当労働行為であるとした初審命令の判断を相当であるとしていることは、当事者間に争いがない。

二  当事者等

会社は、命令書記載の肩書地に本社を置き、東京ほか八か所に工場を有し、食肉の加工製造及び販売を目的とする会社で、その従業員数は再審査申立て当時約五、六〇〇名である。組合は、昭和四〇年五月二九日頃に結成され、命令書記載の肩書地に本部を置き、全国九支部を有し、組合員数は再審査申立て当時約一、〇〇〇名であり、全日本食品労働組合連合会に加盟している。会社には組合のほかに昭和四八年三月四日に結成された訴外プリマ民主労働組合がある。

以上の事実は、当事者間に争いがない。

三  社長声明文掲示前の労使関係

(一)  命令書理由第1・2・(1)および(2)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  当事者間に争いのない事実と≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

昭和四六年春の賃上げ闘争において、組合は一四波にわたる部分ストライキを行い、同年五月二六日会社と妥結するに至った。なお、このストライキにおいて組合は一名の脱落者も出さなかった。妥結にあたり、同月二二日事務折衝が行われたが、その際、組合は会社に対し、口頭で、組合員のストライキの参加時間に長短があるので、賃金カットの公平をはかるために組合費の臨時徴収を行う旨を申し入れ、その具体的な徴収方法について説明した。会社は、右臨時徴収のチェック・オフを了承し、何らの疑義を表明することなく、組合に対し、右の申し入れを書面で行うことを要求し、組合は、同月二四日に組合費の臨時徴収に関する申し入れ書を提出したところ、会社は同月二六日書面により臨時徴収を了承すること及びその具体的な方法を回答した。これにより、会社は、七月分賃金からチェック・オフを実施した。なお、組合がストライキによる賃金カットの公平をはかるため右のような組合費の臨時徴収をしたのはこれが初めてであった。

(三)  当事者間に争いのない事実と≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

昭和四六年八月、労働協約の改定作業が行われた、その結果同月二七日、会社と組合間で協約の有効期間を一年間(昭和四七年七月三一日まで)延長する旨の合意がなされ、協定書が作成された。その際、チェック・オフについて規定している協約一二四条について、会社、組合のいずれの側からも意見あるいは運用上の疑義が表明されることはなかった。さらに同年中に、会社が組合に対し、ストライキによる賃金カットの各人別差額を是正するため臨時徴収という形で会社がチェック・オフを行うことには問題がある旨を指摘したことはなかった。

(四)  当事者間に争いのない事実と≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

昭和四七年三月一三日、組合は会社に対し「昭和四七年度賃金引き上げ、一時金及び諸事項に関する要求」を提出し、団体交渉を重ねたところ、同年四月一五日の中央団交において、会社は第二次回答として組合員一人当り平均一一、一四五円の賃金増額を回答した。会社は、これをもって最終回答であるとの態度を明らかにしたので、組合は、同日団体交渉の決裂を宣言したが、決裂後も団体交渉を継続する意思があることを会社に表明しており、現実に右宣言後も五回にわたり団体交渉が行われた。

四  社長声明文の掲示とその後の事情について

(一)  当事者間に争いのない事実と≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

昭和四七年四月一七日、会社は社長名の下記文書(以下「本件社長声明文」という。)を会社の全事業所に一斉に掲示した。

「昭和四十七年四月一七日

プリマハム株式会社

取締役社長 竹岸政則

従業員の皆さん

本年の賃上げ交渉も大変不幸な結果になってしまいました。

会社は常に従業員とその家族の皆さんが、幸福な生活が出来るよう努力すると共に、お得意先、消費者並びに株主の方方への義務を配慮しながら経営を進めて来ております。

しかし経済界の変動が激しく、年間計画通りの成績をあげ得ることが出来ないのが状態であります。

しかし我が社は昨年、一昨年のストライキ後遺症が、未だ癒えきらないで残っております。

こうした状態ではありますが、本年度の皆さんの要求に対しては、支払能力を度外視して労働問題として解決すべく会社は、素っ裸になって金額においては、妥結した同業他社と同額を、その他の条件については相当上廻る条件を、四月十五日提示しました。

これは速やかに妥結して、今後は会社と従業員の皆さんが一体となって生産に、販売に協力して支払源資を生み出す以外に、プリマの存続はあり得ないと判断したからであります。

ところが組合幹部の皆さんは会社の誠意をどう評価されたのか判りませんが、団交決裂を宣言してきました。

これはとりもなおさず、ストライキを決行することだと思います。

私にはどうもストのためのストを行なわんとする姿にしか写って来ないのは、甚だ遺憾であります。

会社も現在以上の回答を出すことは絶対不可能でありますので、重大な決意をせざるを得ません。

お互いに節度ある行動をとられんことを念願いたしております。

以上」

組合は会社に対し、同月一八日右社長声明文について抗議をした。

(二)  ≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

同年四月一七日、本件社長声明文が新東京工場守衛所前に掲示された。同日新東京工場内に「有志会」という団体が発足したが、その代表者らは、同月一九日午後四時四〇分頃から七時頃までの間に行われた闘争方針を協議するための組合茨城支部の集会において、「ストライキには参加しない。すぐ妥結すべきである。ストライキをやった場合の組合費の臨時徴収には応じない。」などと発言した。さらに、同日付の有志一同から組合茨城支部長津川猛志あての「春闘妥結に関する件要請」と題する文書が、同月二〇日ごろ組合茨城支部闘争委員会を通じて組合中央本部に提出されたところ、右文書には、四月一五日の会社回答を受諾して春闘の終結を図るべきこと、ストライキを決行した場合はストライキに参加しないし、ストライキによる賃金カットに応じないなどの記載がなされていた。また、右文書と共に「決議」と題する新東京工場の係長、主任クラスの署名捺印のある文書も提出されたが、それには会社回答を受諾して春闘の終結をはかるべきであるとの主張が記載されていた。さらに、その頃、組合東京支部で春闘に関する同様の趣旨の決議がなされ決議文を組合本部に提出しようとする動きがあり、組合本社支部、九州支部においても係長クラスによる同様の趣旨の署名活動が行われ、北海道支部でも同様の要請が組合本部に対して行われたり支部大会で同様の発言がなされた。

(三)  当事者間に争いのない事実と、≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

同年四月二七日、組合は同月二五日頃のストライキ通告に基づいて第一波の部分ストライキを実施した。このストライキにおいて、組合本部よりストライキの指令を受けた約二、〇〇〇名の組合員のうち、ストライキに参加しなかった者の数は、東京、本社、茨城、四国の各支部に所属する合計一九三名であった。組合は右のようにストライキにおいて脱落者が相当数出たため、翌二八日、ストライキを中止することを決定した。同年五月一五日、四七年度賃上げ問題について会社と組合は妥結するに至った。

五  チェック・オフ拒否問題について

(一)  当事者間に争いのない事実と≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

組合は、昭和四七年三月三日から六日まで開催された中央委員会において前年と同様の組合費の臨時徴収を行うことを決定しこれに基づいて、五月一五日の前記賃上げ妥結の交渉の席上、会社に対し、ストライキによる賃金カット分を是正する差額を組合費として徴収をするから、労働協約一二四条の臨時徴収費の項目を適用して前年同様の臨時徴収費のチェック・オフを行ってほしい旨を口頭で申し入れた。これに対して会社は、検討のうえ後日回答すると答えたうえ同月一八日、「徴収依頼に対する回答」と題する文書で拒否する旨の回答をしたが、その理由は「公平の原則及び賃金の現金・直接払いの原則に照しあわせてみて疑義が生じ、会社として法的責任を問われることにもなる。」という内容であった。その後六月二日に組合と会社は団体交渉を行い、右会社回答について話し合ったが両者の見解は対立したままであった。

(二)  命令書理由第1・4・(2)の事実は、当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によれば、同年七月六日付で組合は「申し入れ書」を会社に提出し、七月五日付会社回答にいう組合申し入れの組合費の臨時徴収は労働協約一二四条七号にいう臨時徴収費とは認めることができないとの会社の主張は不明瞭なので、具体的に理由を七月八日までに回答するよう要求した。これに対し、会社は七月八日付「回答書」で「現労働協約成立に至るまでの経過に基づくものである。」旨を答えた。

六  不当労働行為の成否

(一)  会社は、本件社長声明文を提示し、臨時徴収費のチェック・オフを拒否した会社の行為をもって組合の弱体化を意図した支配介入行為であり労働組合法七条三号に該当し不当労働行為を構成すると被告が判断したことは誤りであり、本件命令は違法であると主張している。そこで以下、順次、検討する。

(二)  本件社長声明文の掲示について

およそ使用者だからといって憲法二一条に掲げる言論の自由が否定されるいわれがないことはもちろんであるが、憲法二八条の団結権を侵害してはならないという制約をうけることを免れず、使用者の言論が組合の結成、運営に対する支配介入にわたる場合は不当労働行為として禁止の対象となると解すべきである。これを具体的にいえば、組合に対する使用者の言論が不当労働行為に該当するかどうかは、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などを総合して判断し、当該言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすような場合は支配介入となるというべきである。

以上の見地に立って、本件について検討する。第一に、本件社長声明文は、その対象者を「従業員の皆さん」としているが、≪証拠省略≫によれば、会社は当時組合といわゆるユニオン・ショップ制を協定していたことが認められるから、「従業員の皆さん」はとりもなおさず組合員全員を対象にしているとみるのほかない。第二に、声明文の内容によれば、(1)「組合幹部の皆さんは」という文言については、組合執行部の態度を批判することにより、執行部と一般組合員との間の離反をはかる恐れがあるとみられなくはない(≪証拠省略≫によれば、昭和四五年春の賃上げ闘争時における社長声明文では「組合は」と記載されている。)。(2)「ストのためのスト」という文言については、≪証拠省略≫によれば、組合の団交決裂宣言は争議開始の要件として労働協約上定められており、また、≪証拠省略≫によれば、昭和四五年度は団交決裂宣言後ストライキ突入までに九日間あり、その間に二回団体交渉が行われ、昭和四六年度も団交決裂宣言後ストライキ突入までに五日間あり、その間に一回団体交渉が行われており、≪証拠省略≫によれば、昭和四六年における団交の際、組合がストライキ開始の要件として決裂宣言をしたことをめぐって労使間で議論が交わされたことが認められ、以上のような経緯からすれば、組合の団交決裂宣言が直ちにストライキを決行するという趣旨でないことは、会社において十分に、認識していたものと思われる。(≪証拠省略≫によれば、本件声明文発表当時、四月二七日以降のストライキ計画は公表されておらず、会社はこれを知らなかったことが認められる。)他方、前記認定事実によれば、会社は、昭和四七年四月一五日第二次回答をもって最終回答である旨の態度を明確にしたから、以上のような状況の下において、組合側が団交決裂宣言をしたことはやむをえないものと評すべき余地が少なくなく、いたずらに闘争一点張りに走る態度とは断ぜられない。(3)「重大な決意」との文言は、一般的にいって組合員に対する威嚇的な効果をもつことは否定できず、なるほど≪証拠省略≫によれば、会社が主張するように、社長は組合との団交時に「重大な決意」とか「重大な決断」という発言をした事例が二、三あるがこれらはいずれも金額回答をする場合とか、会社の経営計画の検討についてのものであるから、本件の場合と同列に論ずることはできない。(4)「節度ある行動をとるように」との文言は、≪証拠省略≫によれば、会社は、従来組合の争議方法について問題にしたことはなかったことが認められるからこれはひっきょう、組合員に対するストライキ不参加の呼びかけというのほかない。第三に、本件声明文は、前記認定のとおり、同時頃全事業所に一斉に掲示して発表された。第四に、本件声明文の発表の時期についてみると、四月一五日の団交決裂宣言が直ちにストライキに突入することを意味しておらず、なお団体交渉によって話し合いを継続する余地のある段階であったことは前記「ストのためのスト」の頃で認定した諸事実から明らかである。第五に、本件声明文は、会社の最高責任者としての社長名義で発表されている。第六に、本件声明文の影響として、これが発表後、ストライキに反対する組合内部での動きが各支部において急に現われてきたところからみて、組合内部における執行部の方針に批判的な勢力に力を与えて勇気づけて、初めて一九三名に及ぶ脱落者が出たといえよう。以上を総合して考えると、本件社長声明文は、ストライキをいつどのような方法で行うか等という、組合が自主的に判断して行動すべきいわゆる組合の内部運営に対する支配介入行為にあたると認めるのが相当である。

(三)  チェック・オフ拒否問題

1  使用者が組合活動を弱める目的で従来から行われていたチェック・オフを拒否することは、特段の事情がない限り、支配介入行為として不当労働行為となるものと解される。

本件において、会社は昭和四六年度の賃金引上げ闘争後も本件と全く同様のストライキによる賃金カットの金額について組合員間の公平をはかるための臨時徴収費のチェック・オフを何ら疑義なく実施していること、同年八月の労働協約の改定作業の際も、会社は協約一二四条七号について何らの疑義を表明していないし、同年中に会社が組合に対し、臨時徴収費として本件のようなチェック・オフを行うことが問題である旨を述べたことがなかったことは、前記認定のとおりである。そこで会社が本件臨時徴収費のチェック・オフを拒否する特段の事情が存するかどうか検討することとする。

会社は、この点について、本件昭和四七年五月の臨時徴収費のチェック・オフは、各組合員毎に平等な金額又は比率によるものではないので、徴収される金額、計算割合の異なる差別的な徴収である。すなわち、昭和四三年労働協約一二四条を締結した当時における労使間の交渉においては同条七号の、「臨時徴収費」とは、会社から臨時に支払われる金員(夏季及び冬季の一時金のようなもの)中から組合費を控除するという点で毎月の給与から控除する「組合費」とは異なるという合意があったのであるから、臨時徴収といっても毎月の給与から徴収する組合費と同様の公平、平等な比率、金額によるもののみが該当することになり、結局、本件臨時徴収費は協約にいう「臨時徴収費」に該当せず、仮にそうでないとしても、右のような差別的な徴収は、組合員の均等取扱義務(労働組合法五条二項三、四号等)に違反し違法なものであるから、労働協約をもってしても会社は差別的な徴収を義務づけられるいわれはなく、従って会社が違法であり義務づけられていない本件臨時徴収費のチェック・オフを拒否することは正当である、と主張する。

しかしながら、労働協約一二四条七号の「臨時徴収費」を会社主張のように解すべき労使間の合意を認めるに足りる証拠はないし、組合が組合員からいつどのような方法で組合員間のストライキによる賃金カット額の均等化をはかるための臨時徴収費を徴収するかは組合の内部運営に関する問題であり、本来組合において自主的に決めるべき事項として使用者のこれに対する干渉は支配介入にあたるというべきである。本件において、組合は、組合の中央委員会で決定したことに基づき、労働協約の定めに従って会社に臨時徴収費のチェック・オフを申し入れているのであって、会社が組合の方針について干渉することは許されず、会社が本件チェック・オフを拒否する特段の事情を認めることはできない。

以上の事実と、本件チェック・オフの拒否は昭和四七年度賃上げ闘争における同年四月二七日実施された部分ストライキについての賃金カットに関するものであるところ、右ストライキの前に本件社長声明文が発表され、ストライキにおいて組合側に相当数の脱落者が出て組合の組織内に動揺が生じている時期になされたものであることを考え合わせれば、本件チェック・オフの拒否は、昭和四六年度における賃上げ闘争の長期化(≪証拠省略≫によれば、四月一二日から五月一八日までの間一四回のストライキが行われたことが認められる)と同様な事態が反覆されることをおそれる使用者が組合の弱体化をはかるためになされたもので支配介入行為として不当労働行為にあたると認めるのが相当である。

2  会社は、本件チェック・オフを拒否したのは、それが違法なチェック・オフであると確信していたためであり何ら他意はなかったものであるから、このような場合は不当労働行為は成立しないと主張する。

しかしながら支配介入は外形上労働組合の結成、運営等を支配し、又は介入するものであって、抽象的に組合の団結権を侵害する危険性を有する使用者の行為であれば足り、客観的に支配介入の事実があれば使用者の意図のいかんを問わず不当労働行為は成立するものと解するのが相当であるから、会社の右主張は採用できない。

3  会社は、初審命令主文第一項はチェック・オフの具体的な内容である対象となる組合員の範囲、各組合員の金額、その計算方式を全く欠いていて内容の確定を欠くものであるから、右主文を維持した本件命令は行政処分として内容の確定を欠き、違法であると主張する。

しかしながら、会社に対して昭和四七年五月一五日付組合の申し入れに基づき組合が指定する臨時徴収費の賃金控除を行い組合に控除額を交付することを命じた本件命令は、それ自体で十分特定されており、ただ会社がチェック・オフを拒否する態度に出たために、チェック・オフの具体的内容が定まらず現実にチェック・オフを実施できない結果となっているにすぎないから、会社の右主張はとうてい採用できない。

4  会社は、労働協約は昭和四八年三月末日をもって失効したから、現在会社は本件チェック・オフを義務づけられておらず、むしろ控除を実施するのは違法とさえされる恐れがあるから、本件命令はこの点において違法であると主張する。

まず、すでに判示したところと≪証拠省略≫を総合すれば、昭和四八年三月末日をもって会社と組合間の労働協約は失効していることが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

そこで、参加人の抗弁について、検討する。参加人は、行政事件訴訟法二二条四項により、被告との間には必要的共同訴訟に準ずる関係があるから、被告も参加人の抗弁と同様の主張をしたものとみなされなければならない。

ところで、右抗弁事実中、会社が参加人との間の労働契約失効後も現在に至るまで、事実上、右協約一二四条七号の規定どおりのチェック・オフを実施していることは、当事者間に争いがない。右事実によれば、会社と参加人間には、右協約失効後は協約一二四条七号と同様のチェック・オフについての労働慣行が存在するものと認められるから、会社が労働協約の失効をもって本件チェック・オフを実施する義務がないとすることはできない。従って、会社の右主張は採用できない。

5  会社は、組合は昭和四八年三月分裂したことにより別組合に所属することになった組合員がいること、昭和四七年五月一五日から現在に至るまでに会社を退職したものもいるから、昭和四七年五月一五日当時組合に所属していた者に対してチェック・オフを行うことを命ずる本件命令は違法であると主張する。

ところで、参加人は、会社の右主張は、時機に遅れて提出された旨主張し、すでに判示したとおりの本件訴の性質上、被告も同様の主張をしたものと考えられるところ、会社は右主張を昭和五〇年一二月五日の第四回口頭弁論期日において初めて提出したものであるが、右期日は、すでに証拠調の終了した弁論終結直前であること、本件は準備手続を経ていること、同年四月二二日申立ての本件命令についての緊急命令の取消申立て事件において会社が右主張をしていることは、当裁判所に顕著な事実である。このような経過に徴すると、会社は右主張を重大な過失により時機に後れて提出したものというべきであり、弁論の全趣旨によれば、会社の右主張を判断するためには新たな証拠調を必要とするものと認められるから、これは訴訟の完結を遅延させるものであると認められる。したがって、当裁判所は、民事訴訟法一三九条により、会社の右主張を時機に後れた攻撃防禦方法としてこれを却下する。

七  結論

以上のとおり、本件社長声明文を掲示し、かつ、本件チェック・オフを拒否した会社の行為は、労働組合法七条三号の不当労働行為にあたるものであって、被告がこれと同一の判断のもとに本件命令を発したのは正当であり、右命令には、その処分内容上も違法な点が認められない。

よって、本件命令の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条後段を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤栄一 裁判官 仙波英躬 裁判長裁判官宮崎啓一は、転任のため、署名捺印することができない。裁判官 佐藤栄一)

<以下省略>

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